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タイ 開発と民主主義

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題名:タイ 開発と民主主義 (岩波新書)
著者:末廣 昭
出版年:1993年
出版社: 岩波書店

前回読んだ著者の別書(『タイ 中進国の模索』)と同様、
明晰な分析力と筆運びに圧倒されたで書。

例えば(p248、しかし、要約したので、引用ではない)、
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サリット首相が提唱し、その後、形を変えて繰り返し登場するタイ式民主主義は次の3つを重要な構成要素とする。
①国王を元首とする政治体制の護持、
②議会や政党に優越する政治指導者の存在(様々な階層・団体の利害を代表する政党政治家ではなく、国民を庇護する統治者としての政治家を重視する発想)
③この政治指導者による国民的利益の追求、もしくは社会的公正(タム)の実現

かりに権力を集中しても、①に背き、③をおろそかにする政治指導者は、結局、「バラミー(徳、威信)」がない人物とみなされ、別の指導者によって権力の座から追放されてきた。そこに、タイ政治にダイナミズムと周期的転換が生じる根拠がある。
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タイだけではなく、第二次世界大戦後、
開発を通して、国民国家を形成していった東南アジアやアフリカに適用できるだろう
民主主義化と開発との関係についての分析の例は、以下。
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経済発展あるいは開発体制は、それに実効性を持たせようとすればするほど、政策決定の中央集権化(強権的政府)や政治の長期安定性を要請しがちである。これに対し、民主主義は政治の分権化や政治変動の制度化(例えば、選挙による政権交替)を不可欠の要件とするから、民主化の推進は経済発展が要求する政治体制とぶつかってしまう。開発と民主化は両立しにくいのである(p216)
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それにしても、タイに対して思うことは、
「タム」という概念にせよ、「生きるための農業と村づくり運動」にせよ、
タイから学ぶことは多い。
特に、資本主義社会が行き詰った、あるいは新自由主義の弊害が顕著になっている昨今、
タイがこれまで取り組んできたことを本気で世界的に学ぶ必要があると思う。
by sakonia73livre | 2015-05-03 02:27 | 社会的知識