題名:The Burning Forest: India's War in Bastar
著者:Nandini Sundar
出版年:Juggernaut
出版社:2016
e0158454_02333915.jpg

インドのChhattisgarh州に広がる森林地帯Basterに昔から住む
少数民族Adivasisが、
2005年頃から、
「『遅れている』少数民族を『開発』する」目的で、
「Naxalitesあるいは毛沢東主義(Maoist)から保護する」目的で、
州政府(や中央政府)により居住地から強制移住地に移された。

実際には、Adivasisの住む森林には
鉱山があり、また高値で売れる木々が生い茂っており、
「宝の山」だったからだ。

移住させられた者は、まだ幸せだったかもしれない。
Adivasisasisは、村を焼かれ、年齢構わず女性はレイプされ、
森林に逃げ遅れた人々は殺された。

強制移住、焼き討ち、レイプ、殺害には、
警察や特別警察官(Special Police Officers: SPOs)が行った。
SPOとは、新しく作られたもので、
Maoistに恨みをもつ者をはじめ、
Maoist共感者は殺害するぞと脅かし、
住民をSPOに仕立て上げた。
(無職の若者が多いビハール州やUP州からもSPOが募られた。)

大量殺人が起こったわけだが、
人々の知るところになるには時間がかかった。
その理由は、
僻地にあること、そのためメディアの駐在もいなければ出張もままならないこと、
大手メディアの出資者が鉱山にも投資していること、
地元ジャーナリストがいないこと、
AdivasisはMaoistと同一視する(させる)ポリティクスが動いているので、
人々の共感を呼ばないことなどが挙げられている。

著者はインド人人類学者。
詳細な調査をする一方、仲間の学者や弁護士とチームを作り、
強制移住地の廃止、殺害者家族への補償などを、
州政府を相手に裁判を起こす。
数年かけて、勝訴に持ち込む。
しかし。
最高裁判所の命令であっても、州政府は従わない。
本が出版された2016年も、
Adivasisは何の補償もされず、レイプや殺害が続いているという。

なんてこった。
2005年からそんなことが起きていたなんて。
2004年まで2年間弱インドにいたし、2009年にもインドに2カ月行っていたのに、
私は全く知らなかった。
(「Basterの出来事、知っている?と現在滞在しているインドの某都市の人たちに質問したら、
「あー、あれねー」と知っている人は知っている、けれど、知らない人は知らない様子。)

っと、かなり衝撃的な事実を追った本。
前半は、緻密に文献や政府の記録を洗い、また著者が足繫く通った現地調査からなる描写的ナラティブ、
後半は、メディア、プロパガンダ合戦、人々の関心と無関心、無責任(むしろ利己主義)な政府、裁判でまとめらている。
内容が濃く、また悲惨なので、読み進めるのが辛いのだが、
著者の感情に走ることなく、クリティカル・シンキングで緻密に出来事を追うので分かり易く、
また、文章自体がリズム感が良く美しいので、
グイグイと引き込まれて、あっという間に読めた。

(最近、睡魔に襲われて碌に読書ができなかったのに!この本は別格という証拠。)

Adivasisの事実がインド国内はもとより、世界に知られていない(はず)。
彼らの過酷な状況は現在進行形である。
http://www.indiatimes.com/news/india/beyond-rape-and-torture-of-adivasis-in-chattisgarh-suspended-cop-s-facebook-post-reveals-more-horror-stories-321252.html

もっと様々な人が知ってほしい。
インド政府が駄目なんだから国際社会が何とかしないと。

加えて、
私の周りはどうなのだろう?と少々調べてみたら、
「村が燃やされた」という出来事は、それほど珍しくないようだ。
(焼かれないとしても、強制移住は良く聞く話。)
現政権下、「開発」が叫ばれる中、「闇」の部分も「開発」中なのは間違いない。

インドだけではない。
世界中、至るところ、新自由主義が横行しているところで発生している出来事。
この本から学び、身の回りに目を向けると、「あ、ここでも!」となるはず。

[PR]
# by sakonia73livre | 2017-07-30 02:35 | 人類学(Ethnography)

The idea of India

題名:The idea of Indiae0158454_19561427.jpg

著者:Sunil Khilnani

出版年:2003

出版社:Penguin

ケララ州の友人宅に遊びに行った。

イギリスによる植民地支配の話題になり、「イギリスに支配された150年間に、インドが蓄積してきた知恵が破壊され、代わりに彼らの解釈による『カースト制度』が導入され、それまでの『インド』がなくなってしまった。この痛手は大きい」と80歳近い女性が言った。

カースト制度はイギリス帝国主義の産物であること、国(あるいは国民国家)は、西洋のナショナリズムを通して生まれた概念であり、アジアやアフリカでは植民地主義を通して国民国家が生まれたことについては多くの議論が既になされている。

さて、これらの視点から「インド」を見たことがないことに気づいた。「インドとは?」「インドとパキスタンの分割統治の背景は?」と改めて疑問に思い、この本を読んでみることにした。

良書。

インドは1947年の独立以後の政治的取り組みの結果、国民国家の形をとり続けている。インドは多元性と例外性に満ちた国だ。言語、民族、宗教などの違いが多様であり、地理的にあるいは文化的に国としてまとめようとしても到底無駄だ。文化や宗教を単位としてまとまろうとする動きが強まれば強まるほど、国として瓦解してしまう。それを回避するためには、やはり政治が重要である。これが著者の主張である。

イギリス植民地時代、ガンジー時代、ネルー時代、ラジブ・ガンジー時代、そしてその後の政治を分析しながら、インドが今の形をとるようになったことを解説してくれる。

Regionalismの関連から、主要都市についても触れられ、大変興味深い。今、私はバラナシに住んでいるが、ヒンドゥー教徒の聖地として有名なだけでなく、どうやらガンジーの時代から「汚い町」として認識されていたようだ(溜息)。

インドに興味を持ち始めたばかりの読者だけでなく、ある程度知識と経験がある読者にとっても楽しめる本だと思う。


[PR]
# by sakonia73livre | 2017-06-12 19:57 | 人類学(Ethnography)

e0158454_18423419.jpg

題名:Talking to the Enemy: Faith, Brotherhood, and the (Un)Making of Terrorists

著者:Scott Atran

出版年:2010

出版社:HarperCollins e-books


昨今のテロリズム多発を受け、ジハーディストについて、

特にどうして若者がジハーディストになるのか興味があり、

人類学者による研究があるかどうか調べたところ、この本を見つけた。

Kindle版で118円という破格の値段で迷いなく買った。


斬新な切り口、明晰な分析、豊富な事例と、豊かな内容の良書。

著者の「昨今のジハーディスト化」の意見は、これまで読んだ分析の中で一番腑に落ちた。

ジハーディストは、特に変わった趣味嗜好を持っているわけではない。


彼らは私たちと同じように生活してきた。家族や友人などと関り、彼らと影響しあって暮らしてきた。

ジハーディストは何かの「目的(あるいは主義)」のために自爆するわけではない。

「誰かのため」に、関係性において自爆する。


昨今のテロ行為は、組織による命令の下に行われているわけではない。

サッカーなどで遊ぶ若者が、サッカーのために集まるように集まり、遊び仲間がテロ行為に結びつくときは結びつく。

ジハーディストとして死んだ若者は、サッカーのロナウドのように憧れの存在となり、

それに続く若者が現れる。


著者は2005年頃から、現地調査を通した分析に基づき、ジハーディストが生まれる背景は個々に異なり、

地域や個人のバックグラウンドに合わせた調査と対応策が必要、

テロリズムを止めるには社会的な取り組みが必要との意見を提示してきている。

アメリカ政府から要請されて意見を述べてもいるが、

高度技術を投入してテロリズム撲滅に挑んでいた当時の政府には、真剣に受け止められなかったようだ。


昨今は、ナイフによって刺殺したり、一般の車両で通行人に突っ込むタイプのローテクなテロリズムがヨーロッパで起こり、

それらテロリストは紛争地に生まれ育っているわけではなく、当のヨーロッパ出身者であるといった状況が主流となる中、

上記のように著者の論じるジハーディストが生まれる背景、テロリズムへの社会的アプローチに本質があると、

やっと多数派が気づき始めた…といった感じだろうか。


テロリズムは、自然発生するような現象ではない。

人間が起こすものなのだから、人間に原因がある。

社会的現象と捉えない限り、原因も解決策も見出せない。

これらのメッセージが、著者の強い信念が、この1冊を貫いている。


簡単に内容に触れると、

ジハーディストに関わることならば何でも!というぐらい幅広い内容。

地域も、ヨーロッパ、インドネシア、アフリカ、中東を網羅し、

ジハーディストの定義を踏まえ、歴史を遡る、豊富な内容。

(途中、「長い。半分ぐらいでいいのに…」と思ったりもした。)


パレスティナとイスラエルについて多くのページを費やしている。

きっと、パレスティナ・イスラエル問題から出発した人なのかもしれない。


とにかく、読むべき書。

繰り返すが、キンドルならば118円だ。


[PR]
# by sakonia73livre | 2017-06-09 19:00 | 人類学(Ethnography)

題名:Land’s End: Capitalist Relations on an Indigenous Frontier
著者:Tania Murray Li
出版年:2014年
出版社:Duke University Press Books

かなり気の滅入る内容。
インドネシアのスラウェシ島の山岳民族であるラウジェ族(Lauje Highlanders)は、
先祖代々から、土地を「自然からの借りもの」として親戚一同が使用する「共有地」として使ってきた。

世界とつながる資本主義経済の流れから、ラウジェ族もカカオ栽培に着手する。
ギリギリの生活から抜け出すために、ラウジェ族はカカオ栽培を好意的に受け入れた。
モラル経済とは仕組みが違い、彼らの生活方法に大きな変更を要求する資本主義経済ではあるが、
少しでも暮らしが楽になるならば…と乗り出した訳だ。

カール・ポランニーが論じたような、既存のモラル経済が社会のセーフティーネットの役割を果たし続けるほど、
資本主義経済の勢いは緩くはなかった。
土地を持つ者と持たざる者の区別が現れた直ぐに、
持たざる者は借金を抱え、借金を返すためにただ同然の賃金労働をせざるを得なく、
新しい作物に投資する余力も土地もないので、ますます貧困に陥っていく。

災害などドラマティックな人道被害に対して人道支援団体は動くが、
徐々に土地を失い、貧困に陥っていくような緩慢な事態には人の注目は集まらない。
そのような支援があったとしても、それらの情報や利益を得るのは、政府の権力者や土地をもつ有力者。
ラウジェ族は、誰からの助けも見込まれない。
ラウジェ族が(土地をめぐる)権利をもとめるため一丸となって立ち上がるしか…ない。

しかし。

世の中の流れは、気候変動や大気汚染問題が喫緊の課題となっており、
森林保護が叫ばれている今日、
代々、自然からの借り物として民族が共有地として使ってきた僅かな土地は、
彼らから遠ざかる一方である。

ラウジェ族の問題は、「彼ら」の問題ではなく、「私たち」の問題であることは一目瞭然だ。
このような事態が、多くの場所で起きているのも明らかだ。
著者が本書全体で、特に結論部分で特に開発分野の人々に対して述べているように、
「農業が上手くいかなかったら、止めて、工場従事者になればいい」といった安易ではなく、
でも、早急な解決が求められる。
(昨今流行り?のダイレクトペイメントなのだろうか…。
でも、その場合、自分たちの共有地で働くことでなりたっていた彼らの生活と「あり方」はどうなるのだろう?)

[PR]
# by sakonia73livre | 2017-03-20 16:47 | 人類学(Ethnography)

題名:Inner Engineering: A Yogi's Guide to Joy
著者:Sadhguru
出版年:2016年
出版社:Penguin Random House India Pvt. Ltd

これまで読んだヨガに関する本の中で、最も読み易く、分かり易く、面白い本。
ヨガのエッセンスを丁寧に一つ一つ説明してくれ、
一挙手一投足に意識を向けるヨガそのものを著書を通して実演してくれる。

エッセンスがぎっしり詰まっているので、何度も本書に戻り、
自分が納得いくまで、体得するまで、
繰り返し繰り返し、読みながら、実践するのみ。

お勧め度満点の本。


[PR]
# by sakonia73livre | 2017-03-19 23:27 | 東洋哲学